MEMORIAL GAMESに戻る

   男は独り死地を征く

題目:戦場の狼
                         
■メーカー:カプコン
■メディア:アーケード
■ジャンル:シューティング
■発売年 :1985年




「孤独に戦場を駆ける兵士」という意味合いでのタイトルなんだろうけれど、狼とは本来群集生活を営む動物。
従って、正しくは『
戦場の一匹狼』なのでは…。











最も現実的な夢

 本作の舞台は、タイトルの示す通り
「戦場」。砲弾が跳び交い、兵士達が
血みどろの戦いを繰り広げる修羅場で
ある。妄想とご都合に満ち溢れた魔法
の世界や、科学文明に過剰な期待の寄
せられたSFの世界とはこの時点で違
うことが見て取れよう。
 何しろ、「戦場」とはこの現実世界
において、人類発足以来途切れること
無く繰り返されている事象。文明の発
達とともにそれは激化し、被害や犠牲
者も増加を辿る一方。今では最早、そ
の軍事力に人類自身が責任を持ち切れ
なくなるまでに肥大化してしまってい
る――今はこの話は置いておこう。

敵地の真っ只中に、いざ降り立つ!
孤独なる死闘が、今始まる―。



進むのも人間、阻むのも人間。
勝っても負けても、失われるのは人の命…。
 ともかく、「戦場」即ち「戦争」とは、こ
の現実世界において常に展開されている(悲
しいけれど)。実際に起こっている・起こり
得ることであるだけに、創作のテーマとして
は現実味があるわけである。そういうものを
テーマとして扱えるのって、世が平穏である
証なんだろうなあ…。
 この日本国内においても戦争の実体験者は
今や一握りとなったが、たとえ非体験者であ
れ、戦争が極力(「断固」とは言わん)避け
たい道であることは感じていよう。「サバイ
バルゲームみたいな『ごっこ』はともかく、
実際の戦争はごめん」という見解も多いし、
せめてそういう気持ちは持っておきたいもの
である。


 本作『戦場の狼』は、そんなハードな現実世
界を舞台として起用したわけである。当時のゲ
ームはどれもこれも、SFやファンタジーとい
った「そのゲームなりの世界」で個々に完結し
ていたので、こうした地に足の着いた世界は逆
に新鮮であった。
 この数年前に公開された『ランボー』や、こ
の頃から徐々に流行の兆しを見せていたサバイ
バルゲームの影響からか、作品は大ヒット! 
反戦平和はもちろんとして、戦場をたった一人
で突き進む孤高のソルジャーってやっぱカッコ
イイしな〜。善悪云々を問わず、大勢で一人を
攻撃するのは「卑怯」のイメージが付きまとう
が、逆に一人で大勢を相手に戦うのは格好良く
思えるから不思議である。

何十・何百人に囲まれようが、突き進むのみ!
それしか生き抜く術はないのだから―。











本能(本音?)の解放

 そんなゲーム世界の雰囲気もさることながら、肝心要のゲーム性はもちろん秀逸であった。初期の
ゲームだけに、操作系は8方向レバーにボタン2つと極めてシンプル。ただこれだけのシステムで大
ヒットに繋がったのは、そのシンプルさがゲーム世界にマッチしていたからではないだろうか。


 このゲームはプレイヤーの進
行に合わせて画面が動く任意ス
クロール制。そしてゲームシス
テムにおいて「とにかく前進」
という明確な方向性があった。
当然、ゴール地点であるステー
ジの行き止まりを目指して進む
わけであるが、冒頭で何度も語
った様に舞台は「戦場」。そこ
らかしこらで激しい銃撃戦が展
開され、一瞬の油断が死へと繋
がる「地獄」である。そのテー
マに違わず、画面内は大勢の敵
兵や銃弾で埋め尽くされ、プレ
イヤー目掛けて四方八方から


進み往く先では、砦での猛攻が待つ!
生き残りたくば、見る者は躊躇せずに撃て!
め寄せて来る。本当、息つく暇
なんか全然無いくらい…。
 そんな熾烈極まる修羅の旅路
を、プレイヤーはたった独りで
駆け抜けなければならないので
ある。マシンガン一丁と手榴弾
だけを頼みに…。このシチュエ
ーション、男なら燃えずにはい
られまい! ゲーム中は主人公
たるスーパー・ジョーにシンク
ロして、ほとんどトランス状態
である。死地に赴く孤高の戦士
ってのに憧れるのよ、男って生
き物は…。




ロケットランチャーの猛攻が行く手を阻む!
負けずに手榴弾で吹っとばせ!
 そして何より大きいのが、やはりその爽
快感であろう。プレイ中はアレコレ難しい
ことは考えず(考える暇も無いけれど)、
頭の中を真っ白にしてゲームにのめり込め
る! 敵からの熾烈な攻撃に神経を磨り減
らす反面、群がる敵をマシンガンでバリバ
リ撃ち倒すのは何とも痛快である。4〜5
人固まっているのを手榴弾でまとめて吹っ
とばすのなんて胸の空く思いよ、本当♪ 
昔の子供の戦争ごっこ、そしてサバイバル
ゲームの醍醐味は多分ここにあるんだろう
なあ。

 実際の戦闘では「死」というリスクとの
背中合わせだけれど、創作の世界にはそれ
が無い分、「快感」の部分だけを満喫でき
るからかも知れない?



 そもそも人間には「闘争」「破壊」「殺戮」な
どの本能がある。それら「負」属性の事象を、普
段は「理性」というやはり人間特有の事象によっ
て抑えているわけである。「理性」の限界を超え
た者、あるいは「理性」のカケラも無いバカども
によって、暴力や破壊活動、果ては殺人といった
陰惨な事件が引き起こされるということ。そうい
うことの無い社会を築くためにも、人間社会では
お互い譲り合い認め合い、昔みたいに子供にしっ
かりと道徳教育をしていかなければ…。


 しかし、理屈云々でなく感覚的
に、人間が「暴力」「破壊」とい
うものに快感や魅力を感じてしま
うのも確か。無意味無差別にその
行為に及ぶのはもっての他だが、
何かの拍子にそれが噴出してしま
う恐れもある。そのガス抜きのた
め、そして無罪者に向けられかね
ない照準を逸らすために、人はそ
れ用のルールを制定した。刃を思
い切り落とし、規定に則った上で
お互い納得ずくでの暴力――それ
がご存知「格闘技」であり、そし
てサバイバルゲームや戦争映画み
たいな「ごっこ」なのであろう。

つまりはこれらのおかげで、人間
社会は不条理な暴力の横行を抑え
られていると言える。これは揺る
ぎなき事実である。
 逆に、何でもかんでもミソクソ
に「暴力はダメ!」で禁じてしま
ったら、発散できない鬱憤によっ
て逆に暴力行為が横行しまくるの
は必須である。一見好ましからざ
るものでも、それが無ければもっ
とマズイことになるという「必要
悪」ってものがあるのよ、世の中
には。PTAとかの「お子様はお
宝」団体は、その辺を理解しよう
としないから困るよなあ、本当。


建物を盾にしつつ銃撃! 周囲の物を
味方につけることが戦場を生き抜く知恵なり。



進撃もいよいよ佳境! バイクや管制塔からの
猛攻を掻い潜り、敵拠点を目指せ!
 ともあれ、『戦場の狼』というゲームの世界は、人間の
有する戦闘系のパッションをビシバシ刺激してくれる! 
かなり昔の作品ではあるが、その当時においてさえも戦場
の厳しさや激しさが伝わってきたもの。銃弾の嵐を掻い潜
るのにはヒリヒリした緊張感を伴うし、昨今のSTGのバ
カみたいな弾幕避けのストレスとは大違いである。そして
やはり、マシンガンをぶっ放しながらズンズン進撃するの
が何より気持ちいい!
 後の『ザ・ハウス・オブ・ザ・デッド』シリーズ然り、
「闘争」「破壊」「殺戮」ってのは本能に直結する快感だ
わ、本当。それ系の作品がジャンルを問わずヒットをとば
しているのも、人が法治社会で生きつつも「負」の感情の
発散を求めていればこそかもねえ。誰だってたまにはハメ
を外して壊れてみたいし…。いわゆる「エリート」ほど、
これ系作品を求める傾向があるんじゃない?












ぼくたちの戦場

 筆者の本作との出会いは小学生の頃。県下最大のスケート場(既に閉鎖…)のゲームコーナーでのことであった。


 いくつものテーブル筐体の並ぶ中、
妙に際立って見えたゲームが本作『戦
場の狼』であった。
 他のゲームが戦闘機とかを操って空
や宇宙が舞台だったのに対し、本作は
地上戦で人間キャラが主役。身近に感
じられるグラフィックや人間臭く立ち
回るキャラ達に、奇妙な親しみを覚え
たものであった。
 この頃は既に「夢の世界」と決別し
(「見限った」のではなく「割り切っ
た」)、現実的なものに魅力を感じる
様になってきていたからかと思う。何
しろ、当時愛好していたTVドラマが
『西部警察』だったくらいだし^^


ついに敵要塞に到達! 必死の迎撃と、
攻め上る一匹狼。勝敗の行方は…。



敵要塞陥落後、自軍ヘリが迎えに到着。
そうして息つく間も無く次なる戦場へ…。
 それにやはり、たった独りで戦場を突き進む兵士の姿
にはカッコよさがあった。気の弱い子供であった筆者だ
けに、自分に無い「強さ」「勇気」を持った存在には無
意識に憧れを抱いてしまう様である。幼少時は特撮ヒー
ロー、現実に目覚めてからは格闘家や戦士という風に。
実際、主人公のスーパー・ジョーは、数々の死線を潜り
抜けて勝利してきた英雄なのだから尚更であった(『ヒ
ットラーの復活』では捕まっちゃうけれど^^)。
 戦争が好ましからざる事象だってことはもちろん承知
していたけれど、それはそれとして「戦士」という存在
にはやはり理屈で説明できない魅力があるんだよねえ。
使命感を背負って戦う者はやはりカッコイイ! 自分も
そうしたヒーローを目指して頑張った時期があったけれ
ど(「雑誌投稿」という舞台で)、果たしてなり得たで
あろうか…。



 シンプルなゲームシステムと現実味のある世界観が絶
妙に調和し、人間の本能的快感を刺激することで大人気
となったと言える『戦場の狼』。キャライメージがまず
先行(グッズや同人ウケ狙いなんだろうなあ)し、ハー
ド性能による「演出」で表面的な水増しばかりの近年作
とはまるで逆である。当時のハード性能で、優れたゲー
ム性と魅力的な世界を描こうとしている姿勢が伝わって
きていいなあ。

このゲームは、ゲーマーの主要年齢層である児童らにこ
そプレイしてもらいたい! 至れり尽くせりの新設設計
を当たり前に享受している世代に、昔のゲームの厳しさ
と本質的な面白さを噛み締めてもらいたいから。ゲーム
でも現実でも、太平の世に浸ってきた者が戦場に踏み込
んだら即死するかも知れないが…。

戦士に訪れるひと時の安息。
想いを馳せるは、今を生きる喜びか…。

(C)CAPCOM 1985

MEMORIAL GAMESに戻る




















































おまけ

 昔のゲームメーカーは、ゲー
ムの感想などのお便りを送って
くれたユーザーに対し、ゲーム
の絵葉書などの記念品を贈呈し
ていたそうである。今や御大メ
ーカーたるカプコンも例外では
なかったのだが、この『戦場の
狼』では大胆にも、ゲーム中の
デモ画面でその募集の告知を行
っていた。昔から自社アピール
に余念が無かったのねえ。
 画面に出ている住所は当時の
もの。同年発売の『魔界村』で
ビル一軒分稼いだらしいし、恐
らくは直後に移転を…。

こと細かな募集項目。当時にして、
ゲーメストやベーマガの先駆けとも言える?


 子供心に、この告知の画面が妙に好きだったな〜。何か言い様のない親しみが感じられて。
こういうのって雑誌投稿と同じで、メーカーとユーザーの融和を図るための有効な手段だった
んでない? 『ストU』で世界を喰らい尽くし、格ゲー専門メーカー化して以降のカプコンに
は望むべくもなかろうが…。


MEMORIAL GAMESに戻る