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 オール怪獣総進撃

題目:キングオブザモンスターズ
                     ■メーカー:SNK
■メディア:アーケード
■ジャンル:アクション
■発売年 :1991年



 特撮番組が好きである。怪獣のパワフルさに魅せられ、ヒーローの生き様を手本として幼少期を送ってきた。
4歳児にして『Q』〜『レオ』の全怪獣をソラで憶え、親が勝手に「末は学者か大臣か」などと騒いだり…。











スプーンを掲げ「ジュワッ!」

  この『KOM』、ぶっちゃけて言えばプロレス
ゲーム。個性的(能力差はあんまり無いけれど)
な6種のキャラクターが、ドタバタと殴り合いや
技の応酬、果ては凶器まで使ってバトルを繰り広
げるというもの。
 相手の体力をゼロまで減らして、3カウントフ
ォールをとれば勝ち――これだけなら、既存のプ
ロレスゲームと何ら差異は無い。本作がよそのレ
スリングものと決定的に違いを見せ付けている点
が、その世界観と演出。タイトルの示す通り、プ
レイヤー達は怪獣! 闘いの舞台は、特撮番組で
描かれる様な破壊と混乱の世界なのである…。

人類の文化圏を舞台に、怪獣達が大暴れ!
誰しも一度は見た光景では?(フィクションにも関わらず)











スタッフとアツく語りたい!

 本作ってもう、トコトンまで制作者のこだわりの感じられるゲームなのである。まずプレイヤー
キャラが6種って書いたけれど、ザッと挙げると以下の通り。



いずれも物々しい面構えのファイター、もとい怪獣達。
これからの激闘と惨劇を予感…。

・ジオン(恐竜型)

・ウー(ゴリラ型)

・ポイズンゴースト(スライム型)

・ロッキー(ゴーレム型)

・ビートルマニア(昆虫型)

・アストロガイ(超人型)


 おお〜、マニアの喜びそうなタイプはひと通り
フォローしてあるじゃないか。こうなると、ジオ
ン対ポイズンゴーストで『ゴジラ対へドラ』気分
を満喫するも良し、アストロガイ対アストロガイ
で偽ヒーロー退治に燃えるも良しである^^
 ちなみに、筆者のマイキャラはやはりアストロ
ガイ。子供時分に憧れた巨大ヒーローに、存分に
シンクロできちゃうんだよね〜。溜め必殺技の光
線を撃つ時の気分が特に格別! 戦う理由は、人
類の平和じゃなく私闘ではあるけれど…。

最初の戦場はやはり、怪獣来襲のメッカ・東京。
「田舎に住んでいて良かった」と、子供心に思っていた…。

対峙するは、暴竜ジオンと巨猿ウー。
言うまでもなく『キングコング対ゴジラ』へのオマージュ☆


 マイキャラが怪獣であるだ
けに、そのアクションもそれ
っぽいものが盛り沢山! ジ
オンが火を吹きゃウーは胸ド
ンドン、ポイズンゴーストは
びょんびょん伸び縮み…。怪
獣ものを相当研究、てゆーか
よっぽど好きじゃないと盛り
込めない演出だよなあ。何よ
りも、人間じゃなくてモンス
ターだからこそ、他の格ゲー
と違って制約に捕らわれずに

必殺の一撃・フレイムクラッシャー発射!
人間が波道拳放つよりも自然に思えるから不思議^^
多彩なアクションを描けると
いうものであろう。後のカプ
コンの『ヴァンパイア』も、
同じ理由で演出がピカ1だっ
たと言えるかな…。
 人知を超えた存在って、本
当面白いよなあ。だからこそ
我らは、空想・幻想という有
り得ない世界の産物に魅せら
れるわけである。人間の想像
力って、本当に素晴らしい!
この心、大切にしたいなあ。


闘いの場だってリングや道場じゃない。怪獣の戦場ったらやっぱり、ビルの建ち並ぶ大都市!


 怪獣映画の王道に則り、東京・大
阪といった主要都市を舞台に、怪獣
同士がドカンドカンと大激闘を繰り
広げるわけである。一見コミカルな
がら、なかなかに迫力満点☆
 当然、ただ彼らが歩いているだけ
で周りの建物はブッ壊れてゆくし、
人間の地道な努力の結晶である街は
アッサリ廃墟と化してゆく。東京タ
ワーも金閣寺も、怪獣達の前ではお
構い無しにガッシャンである。まっ
たく迷惑甚だしい(´д`)

自然と文明とが調和する古都・京都。
歴史ある金閣寺も清水寺も、数秒後には灰塵と帰す…。


 ちなみに、そういう名物・名所を破壊した場合は高得点が入るから皮肉演出である。
映画やテレビで、怪獣達が有名な建物ばかり壊す気持ちも解る気がするなあ(広島ステ
ージで、さすがに原爆ドームは壊されない場所に設置してあったり)。



両雄の激突により、半ば焦土と化した神戸の街。
被害を食い止めるべく、戦闘機とメーサー車が出撃!
 もちろん人間だって、そんな脅威に黙って
手をこまねいているわけではない。怪獣達の
バトルの最中、様々な対怪獣メカがワラワラ
出てきては横槍を入れてくるのである。
 戦車や戦闘機、戦艦といった、実在するタ
イプの兵器はもちろんのこと。更には、サン
ダーバード2号っぽいメカとか、東宝お馴染
みのメーサー車みたいなのもあって、特撮魂
くすぐりまくり! 本当に解っているや、本
作のスタッフ陣はさ〜♪ こういう「脇役」
の有無によって、臨場感もグンと上がるとい
うものである。


 これもまたお約束だが、それらから怪獣
が受けるダメージなんて微々たるもの。だ
が、当たると一瞬ひるんだりするからウザ
いことこの上無い。だからそんなオジャマ
虫は、踏んだり叩き落としたりで一掃! 
あるいは、引っ掴んで石ころ代わりに相手
怪獣に投げ付けたりとか…。
 人間の必死の抵抗も、強大な怪獣の前に
は全然無力なとこなんか、まさに怪獣映画
のまんまではないか!? そりゃまあ、アリ
を避けて歩く象なんかいるわけないし…。

一台何億円の戦車も、奴らにとってはただのとび道具!
下手に手出ししない方が、経済的にも懸命なのかなあ…。


 そうしてやりたい放題やった末に、3カウ
ントフォールをとればめでたく面クリ! 闘
いを制した際の気分はなかなかである♪
 マイキャラが相手怪獣を足蹴にしてガッツ
ポーズを決める最中、その闘いでの獲得スコ
アが集計される。それぞれ「破壊率」「汚染
度」「死傷者」という形で――ここまで書い
て気付いたことがある。

フォールされたらボタン連打でひっくり返せ!
既に体力は底をついているが、立てるかジオン!?

二大怪獣のバトルのツケが、この被害状況。
復興にいくらかかることやら。そして還らぬ人命は…。



焦土と化した街。怪獣のみに目が行きがちだが、
そこには数え切れないくらいの犠牲者が…。
 プレイ中は自分は怪獣なわ
けだから気にしていなかった
けれど、人間の目線から見た
ら凄まじい被害が生じている
わけなんだよなあ。ただ動き
回るだけで建物は壊れるし、
それがバトルとなると破壊度
は何倍にも跳ね上がる。車や
船が走っていてもお構い無し
に踏んづけまくり。そのたび
に、壊してしまったものの中
では大勢の人命が失われてい
るわけか…。
 戦闘中、新幹線やジャンボ
ジェットが通過してゆくこと
がある。それを何気に掴んで
相手にぶつけたりしているけ
れど、その一発で何百人もの
人々が犠牲になっているわけ
なんだよなあ。何が起こった
のか理解する暇すら無く、一
瞬で集団死…。
 そう思うとすごい気がして
きた。怪獣同士の闘いって、
本来こうした恐るべき次元の
ものなんじゃないか!?











光ある所に影あり

 初代『ゴジラ』を思い起こすと、ゴジラが本当に
脅威の存在として描かれていた。強大な怪獣の出現
に、人類は成す術無く逃げ惑うばかり…。
 これは、ゴジラが戦争や核の脅威の仮の姿であっ
て、そんなものが行使されれば犠牲となるのは力無
き人民であるという叫びが込められているわけ。本
邦初の怪獣映画は、反戦・反核の想いを込めた風刺
ものだったわけである。それだけに、その視点は常
に人間の側からであり、ゴジラによって生じた被害
の生々しさを痛切に物語っていた…。


 そして後に、特撮ものは徐々に娯楽性
が尊ばれる様になり、怪獣の迫力やヒー
ローのカッコ良さが前面に押し出されて
ゆく様になっていった。
 そうなるともう目線は怪獣・ヒーロー
側本位となり、それらによって生じる被
害等にはフィルターが掛けられる様にな
った。細かいことは気にせず、ド迫力の
バトルを楽しんで下さいねってこと。子
供の頃なんかは難しいことは解らないか
ら、尚更怪獣やヒーローの活躍だけをお
目当てで観るしなあ。もちろん、筆者も
昔はそうであったし。

巨大なモンスターの出現に、我らがヒーロー参上!
地球の平和のために頑張るのだ!?(疑問形)



力の限り闘う両雄。でも、場所は選んで欲しいよな〜。
わざわざ人間の生存圏でやらなくても…。
 だが、そうした「陽」の部分の反面、
破壊や犠牲者といった「陰」の部分も確
実に生じているのである。視聴者に抵抗
を与えるからという理由でいつもぼかさ
れているけれど、やはりこの点から目を
背けちゃいかんよなあ。プラスが成り立
つためにはマイナスを負う者がいるわけ
なんだし。何においても、楽ができるの
は誰かが代わりに苦労してくれているお
かげということを忘れちゃいかんよ。
 その点をキッチリ描いた『ザンボット
3』『仮面ライダークウガ』なんかは真
の名作と言えようて…。


 上でも書いた通り、アリを避けて歩く象はいな
い。怪獣同士のバトルなんてまさに象同士の闘い
で、周りを逃げ惑うアリなんてお構いなしにドッ
タンバッタンである。もちろん、それこそが怪獣
ものの醍醐味であるし、娯楽作品として成立する
上でハードな部分を隠蔽するのは理解できる。こ
の『KOM』だって、ゲーム中は怪獣になりきっ
て気ままわがままにブッ壊しまくるわけだから。


 ところが『KOM』は、面
クリ時のスコア集計(被害報
告)によって、そのバトルの
ツケがどんなものであったか
を知らされる。途端、さっき
まで怪獣(強者)の視点で痛
快プレイしていたのに、今度
は人間(弱者)の視点からそ
のとばっちりの凄まじさを思
い知るわけである。思えばこ
れは、娯楽作品としての存在
と、戦いの悲惨さ・空しさを
訴えた啓蒙作品としての存在
を両立した好例ではないか!?
 プロレスゲームとして、怪
獣ものとして楽しめつつ、初
代『ゴジラ』の放った「一部
の強者達に振り回される大勢
の弱者達の苦しみ」をも噛み
締めることができる――この
年になって、本作に込められ
たその深いメッセージ性がよ
うやく理解できたよ。ゲーム
として、風刺ものとして、や
っぱり傑作だわ。これこそ真
の意味での「子供向け」…。

いつの世も、一握りの強者のために辛酸を舐めるのは、
名も無く弱い人民だ―。











人間の強さは「いたわりの気持ち」

 怪獣映画の元来の姿勢は「脅威
の存在と、それに成す術無く蹂躙
される名も無き弱者達」というも
の。強者(怪獣)の理論でばかり
物事を推し進めては、そのツケを
負わされて苦しい思いをするのは
弱者(人間)――という訴え掛け
だったわけである。
 この気持ち、常に忘れちゃいけ
ないよなあ。成功者・トップ本位
社会であるこの日本じゃ特に。い
じめが一向に無くならないのもそ
れが一因か…。

落雷でエネルギー充填、大復活!(コンティニュー)
こんな所で倒れるわけにはいかないのだ! 己がために…。



ライバル達を征し、怪獣界の頂点に立ったジオン。
その進撃は止まらず、このスタジオも直後には…。
 漢帝国を築いた劉邦とて、元
はと言えば農民の出身。強者の
都合に振り回される者の苦しみ
は身に染みて解っていた。だか
らこそ、人民の幸せを第一とし
て自身は生涯質素に暮らしたと
いう――。
 そうした気持ちに改めて気付
かせてくれた『KOM』に、筆
者は最大級の賞賛を贈りたい!
秀逸な格闘アクションとして、
深いメッセージ性を孕んだ思想
作品として…。

(C)SNK 1991

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