MEMORIAL GAMESに戻る

   忍の真髄、此れに有り!

題目:影の伝説
                      ■メーカー:タイトー
■メディア:アーケード
■ジャンル:アクション
■発売年 :1985年



 元ネタは恐らく、山田風太郎先生の伝奇小説『魔界転生』。その映画版での天草四郎(演・沢田研二)に、
本作のラスボスのイメージと格好が激似なんだよねえ。このゲーム自体も2005年に映画になっていたり…。











忍とは、忍ばぬことと見付けたり?

 日本人は忍者が好きである。別にそれは愛国心からではない。奇想天外な術や肉体を極限まで駆使した動きに
魅せられるからであろう。つまり、特撮番組のヒーローをカッコイイと思うのと同じ感覚。人間誰しも、突拍子
もない力に憧れるもんだしな〜。特に子供の内は、空を飛んだり光線を出したりといった夢の領域に…。


 そんな国民的職種である忍者だから、ゲームのキャラ
としてもしょっちゅうネタにされる(特にカプコンとS
NK)。それはまあいいんだけれど、どいつもこいつも
格好ばっかりでちっとも忍者らしくない!
 派手な「忍術」をジャカスカ使うものの、それ以外の
動作は普通のアクションゲームと大差無いものばかり。
はっきり言えば「忍術」を「超能力」や「魔法」と銘打
ったって何ら差し障り無いんである。どうしてこう、イ
デタチと技だけのハリボテ忍者ばかりなのかねえ…。
 格ゲーの忍者連中なんか特に、必殺技以外の普通の技
や動作は別に「忍者」ってことないじゃん。「『忍』の
字は『刃の心』」って言うくらい、心と体を極限まで鍛
え上げた末での「忍者」なのにな…。


 そんな「見かけ忍者」の横行するゲーム業界だが、「忍術」に依存せず「体術」で忍者らしさを
魅せつける稀有な作品がある。それこそが今回のテーマ『影の伝説』!











真の力は肉体にこそ!

 タイトルにもなっている「影」とは
主人公の忍者。さらわれた霧姫救出の
命を帯び、敵の忍者集団を相手に大立
ち回りを繰り広げるというもの。
 ノリはかなり硬派で、イメージ的に
は、ドラマ『影の軍団』を思わせる感
じだろうか? そういうシリアスな時
代劇が好きな人には絶対オススメの世
界観である。筆者の好みは『赤影』み
たいなSF系なんだけれど、このゲー
ムの様なオチャラケの一切無いのも勿
論大好きなんだよねえ。

一人で森を徘徊して、当然拉致される霧姫。
『魔界村』のOPに匹敵する不条理さ?



魔界の軍勢を相手に大立ち回り!
刀と手裏剣、そして己が体技を信じ、闘え!
 ゲームシステムはサイドビューのアク
ション。プレイヤーは影を操り、敵をバ
ッタバッタと薙ぎ倒しながら先へ先へと
進むのである。野を駆け、空を斬り…そ
んなイメージがすごくしっくりくるんだ
よねえ。
 解り易く言うなら『カムイ伝』『あず
み』みたいなああいう感じだろうか。こ
こだけでも『ハットリくん』『忍たま乱
太郎』みたいなパロディー系とは空気が
全然違っているのが伺えるというもの。
これこそが、正統派の忍者もののスタイ
ルなのでは?


 まあ忍者ものということで、一応「忍術」も
あるにはある。巻物を取ったら画面中がビカビ
カ光って、蚊取り線香の煙で蚊が落ちるみたい
に敵がバタバタ死んだりとか…。だが、それの
占める優位性や存在感ははっきり言って薄い。
 前の方でも書いた通り、本作は「体術」、即
ちキャラのその動きで忍者らしさをアピールし
ているのである。高速で駆け、軽やかに宙を舞
い、刀を振るって敵を薙ぎ倒す…そういう現実
味のある動作が実にカッコ良く、操作していて
非常に引き込まれる! あたかも自らがゲーム
の世界で立ち回っているかの如く…。

いわゆるメガクラッシュ的奥義「雅の術」。
解りにくいけれど、巻物をくわえて印を結び…。


 これは多分あれだ。「忍術」は所詮魔法みたい
なものだし、真似出来ようも無いからリアリティ
が感じられない。しかし「体術」は、現実に存在
するこの体から繰り出されるもの。故に、どんな
超人的な動作であれ、己の身に投影してイメージ
を膨らませられるのである。
 例えば、スペシウム光線は発射ポーズと技名を
叫ぶくらいしか真似しようが無いけれど、ライダ
ーキックなら物理的に何とか実現可能だから身近
に感じられるっしょ?

強敵・妖坊との、熾烈な空中戦!
魔に魅入られた外道僧に、正義の刃が煌く!

相手が妖術を奮おうと、臆することなかれ!
真の強さとは、己が肉体にこそ宿るもの―。


 このことからも解る様に、ユーザーに共感
を得られるのは夢の世界の事象よりも、己に
シンクロし易い現実味を帯びた事象なのであ
る。昭和40年代後半、空想特撮よりスポ根も
のが持てはやされたのも、ここいらの事情に
よる所が大きいものと推察。そろそろ夢から
醒めて、努力と根性で肉体に宿る力を身に付
けろってか…。











大人の忍者ゲー!

 冒頭で「子供の内は、空を飛んだり光線を出したりといった夢の領域に…」って書いたけれど、
ものの分別がつく年頃になると、代わって格闘技みたいな現実的な強さに憧れる様になる。これも
また「大人の階段」を登った証と言えよう。勿論、忍者系もこの例に当てはまる。

そびえ立つ城壁を、敵陣目指して大跳躍!
このジャンプ力も、日々の修行の賜物なのだ。

囚われの霧姫の元に到達! しかし眼前には
妖珠坊が立ち塞がる。蹴散らせ、影!



霧姫救出、そして首尾良く脱出!
天守閣からのダイブに、影はともかく姫は…。
 幼少時は、まるで超能力染
みた忍術にキャッキャッはし
ゃいでいたけれど、それはア
ニメと現実の区別もつかなか
った年頃の話。小学校高学年
くらいからは徐々に、鍛え抜
かれた肉体を駆使した闘いの
方に魅せられてくる。心の底
で、空想と現実との線引きが
出来てきた証であろう。
 それまで抱いてきた夢に失
望や決別をする気は毛頭無い
が、それでもこの年代からは
地に足を着けて歩んでゆくも
の。故に、現実性の高いもの
の方に魅力を感じてしまうの
は必然と言えよう。
 ヒーロー番組で、怪獣の出
現も変身シーンも無いヒュー
マンドラマの回を、「子供」
だったら全然つまらなく感じ
てしまうことであろう。しか
し「大人」ならば、その脚本
に込められたメッセージ性を
感受できる筈。その違いであ
る。


 つまり『影の伝説』は、違いの解る大人
を対象として作られた忍者ゲーだったので
ある。娯楽作品であると同時に、重厚なメ
ッセージ性を孕んだ『ウルトラセブン』の
如く。「解り易さ」「見た目の華やかさ」
のみを求める年少層にはなかなか理解でき
なかったろうなあ…。
 筆者も子供の頃は「地味でシビアなゲー
ムだなあ」と思っていたけれど、あれはコ
ーヒーの美味さが解らないお子ちゃまの浅
はかさであった。今なら解るよ。影のクー
ルでシビアな生き様と、肉体に宿る力こそ
が織り成す感動が…。

首領・雪草妖四郎との決戦!
持てる力の全てを出し切り、魔の者を討て!











闇に生き、闇に滅す…


魔界衆を討ち果たし、無事に姫を奪還。
その余韻に浸る間も無く、影は次なる任務へ…。
 忍者フリークはゲーマー諸氏にも数
多いことと思うが、ならば是非『影の
伝説』をプレイしてみてほしい。忍者
の本来の生き様がいかなものであるか
を知るために。他のゲームみたいなマ
ジシャンやエスパー的でない「忍」の
真の姿がそこにある!
 それに触れてしまえば、ハナから海
外に媚るために作られた
某メリケン忍
なんかがバカバカしく思えること受
け合いである。そうして忍者の本当の
カッコ良さに気付いた時こそ、ヒーロ
ー観が一皮剥けた証と言えようて…。

(C)TAITO 1985

MEMORIAL GAMESに戻る



















































おまけ

地味ながら、現実的な忍術がひとつあった。
水路に浸かってしゃがむと自動的になる
「水とんの術」

中央下部の筒に注目。昔から思っていたが、
水は透明なんだから丸見えじゃないの?


MEMORIAL GAMESに戻る