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                      一寸の虫にも五分の魂…(『虫』ってのもあんまりだけど)

題目:いっき
                              
■メーカー:サンソフト
■メディア :FC
■ジャンル:アクション&シューティング
■発売年 :1985年



 時代劇ゲームは数あれど、「侍」「忍者」とかでなく「農民」というのは後にも先にもこれだけであろう。
まあ一応、形式上は武士に次ぐナンバー2の身分ではあるけれど…(『士農工商』ね)。











元はもっと農耕…いや濃厚

 元々の作品は、サン電子がアーケードで送り出した同名作。
トップビューアクションというスタイルはこの時点で確立され
ていたのである。それを年少ユーザー向けに遊び易く洗練した
ものがFC版。業務用はもっとずっと濃くて、脳に4日間くら
いはこびりつくインパクトがあったのに、ちょっと惜しいかな
あ…。

ほとんど神の領域の、アーケード版『いっき』。
昔のゲーセン市場は本当大らかだった…。











あさってへ駆ける二人

 タイトルの示す通り、本作のテーマは「百姓一揆」。あまりにも厳しい年貢の取り立てに、
遂に農民達の不満が爆発。村民達の想いを背負い、権べと田吾の二人が立ち上がる――という
ものだが、チョット待て。
 仮にも、命を賭して権力者に掛け合う「一揆」が、農民たった二人ってか!?

熟年の権べ(緑)と、若さ溢れる田吾(赤)。
孤高っぷりはゴリ&ラーにも劣らない!?

主な攻撃手段・鎌投げ。本来は農具だが、
命を賭した戦いにおいては命を預ける相棒に…。


 このゲームが一般に妙ゲー呼ば
わりされる由縁がここにある。そ
う、その「ノリの妙ちくりんさ」
である。
 農民がたった二人で戦いに赴く
という時点でアレだが、それをと
りまく様々なフューチャーも何か
「キテ」るのよねえ。その二人を
迎え撃つのが、役人や兵隊じゃな
くて忍者軍団だったり。説明書曰
く「すごく美人な」腰元がプレイ
ヤーとねんごろになろうと追っか
けてきたり。騒動に全然無関係な

「すごく美人な」腰元にまとわりつかれる権べ。
まあ、平安美女だって現代じゃオカメだし…。
はずのオバケが出てきて邪魔して
きたり。江戸時代の日本が舞台で
ありながら、主人公がミスした時
は頭上に天使の輪(キリスト教じ
ゃん)が浮いたりとか。果ては事
の元凶である悪代官(ほとんどバ
カ殿)が無防備にステージを闊歩
したりとか…。
 もうほとんどドリフのコントの
世界である、コレ。むしろ、この
ゲームの世界を逆にアニメとかに
したらカルトギャグ作品として歴
史に刻まれるのでは!?



 そもそも「一揆」とは、命を賭した集団直訴・抗
議活動なわけである。それを本作では、たった二人
で真っ向から権力者に武力闘争を挑むというバトル
ものとしている。命賭けという点では同じでも、言
い分や要求も掲げずにいきなり斬り込んでゆくとい
うのはそれこそ話し合いもクソも無いのでは? ど
う見たって追い詰められた者のヤケだよな〜。お上
にひと泡吹かせて米をぶん取り返せば、後はどうで
もよかったのだろうか…。












ものの真価は中身にこそ

 そんな感じで、あまりにもシュールな雰囲気を醸し出す本作であるが、これを駄ゲー呼ばわりする者が
多いのはどうにも納得しかねる。ノリの奇天烈さに疑う余地は全く無いものの、それは見た目だけの話。
肝心要のゲーム性そのものは、これがなかなかどうしてである。


 パッと見で理解し易いキャラや画
面構成に、無理無く動かせる操作系
――まずアクションゲームとしての
基本条件はクリアしているわけであ
る。ゲーセン版はやたらグラフィッ
クが濃ゆくて、キャラの動きも過度
に大胆であったから、これは洗練と
言えるかも。まあ、当時のFCユー
ザーはまだまだ幼かったから、ゲー
セン版の忠実な移植は子供にウォッ
カを呑ませるみたいなもんだ!?
 そしてメインの攻撃手段である鎌
投げは、何気にフレンドリーな自動

照準。最も近い敵を狙って投げてく
れるから、ボタンを闇雲にバチバチ
押しているだけでもけっこう戦えて
しまう。アクションゲームの全く初
心者でもこれなら安心☆
 当時にして「自動照準」というシ
ステムを採用していたのは、パソコ
ン発の名作STG『テグザー』と本
作だけ。なのに、その点において前
者ばかりが評価されて本作は無視さ
れているのが口惜しい。ハイパーデ
ュアルアーマーと農民との明らかな
差別だよな〜、ったくもう…。


権べ・忍者・小判・葉っぱ・お稲荷さん・etc…。
様々な情報が一目で理解できるのは何気に凄い!?



小判8枚GETでクリアの図。 直後、忍者や
鉄砲隊の餌食となったかは定かではない…。
 兎にも角にも、全般に渡って「解り易い」「遊び易
い」ゲームである。発売当時は何気にプレイしていた
が、今更ながらその並外れた取っ付き易さにちょっと
感嘆。まさしく万人向けだわ、コレ。
 逆に言うと、非常に遊び易いが故に何気無くプレイ
できたってことなんだろうなあ。それだけ基本的なゲ
ームシステムが優れていたということであろう。どい
つもこいつもその肝心な点に気が付かず、見た目のオ
チャラケさに囚われて駄ゲー呼ばわりしていただけで
ある。こういうのは本当に腹が立つ! 侍ゲーは無条
件で高貴、農民キャラはただそれだけで愚鈍なんてい
う先入観こそ、何百年に渡って人間が人間を軽視して
きた差別観そのものだろうに…。



 全てのゲームを「グラフィックは全て線画、キャラは案山子(カカシ)、サウンドも一切無し」
にした場合、真に面白いと言えるゲームがどれだけ残ることか? 『いっき』は間違い無く残るは
ずである。人間だって、死んでしまえば王も乞食も白い骨となって見分けが付かず、その生き様こ
そが後世で評価されるものだ――。











歴史の勉強にはなるまいが…

 本作との出会いは小学校時分だが、かなり遊ばせてもらった覚えがある。前述の「遊び易さ」も
もちろんだが、それとは別の理由も。


 昔から、どちらかというと複雑操作のアク
ションゲームを好む性質(タチ)であった。
自らの操作が如実にキャラの動きに反映され
る、そのシンクロ感がたまらなくてね(「格
ゲー」と呼ばれる部類は複雑化し過ぎだと思
うが)。
 そういう感覚から言うと、『いっき』みた
いな徹底シンプル作品はアッサリし過ぎて物
足りなく感じてしまうかも知れない。にも関
わらずハマっちゃったのは、ひとえにその屈
折した「ノリ」が自分のアンテナを直撃しち
ゃったからじゃないかな〜。好きなのよ、こ
ういうシュールなの…。


竹槍。正面のみ、リーチ全然なしと不利づくめ!
代わりに倒した敵が高得点なのはお約束☆



オバケにとり憑かれると鎌を投げられなく…。
お地蔵様・お稲荷様・緑の石に触って追い払え!
 上の方で「ドリフのコントの世界」って書いたけ
れど、その例えに偽りなし、である。
 ゲームという空想世界だから何でもありなのは当
前だけれど、それでもこのドタバタっぷりは味わい
深いよな〜。百姓一揆がテーマのはずなのに、らし
からぬものが何気に盛り込まれていたりして…。そ
ういう「いい意味でのやりたい放題」が本作の空気
なんだと思う。実際、そのおかげで良くも悪くも多
くの人の記憶に刻み込まれたわけであるし。
『マジンガーZ』におけるボスボロットしかり、見
た目がへんちくりんで実力のある奴って強烈に印象
に残るよなあ。好き嫌いが分かれるのもその系統の
特徴であるし、それ故に興味深いのよ。「お笑い」
の世界ってやつは…。



 実際、本作はかなりの売り上げを記録したそう
であるし、ゲーム自体の出来は及第点であったと
言えよう。しかし、システムのあまりのシンプル
さ故、通常なら程無く飽きが来て人々の記憶にも
残ることはなかったであろう。
  それが強烈に焼き付くこととなったのは、言う
までもなく「百姓一揆」というものを思い切りパ
ロった独自過ぎる世界観のおかげに他なるまい。
ユーザーに受けないと思って他メーカーが手を付
けない、というか誰も思い付きもしない題材をこ
こまで伝説化したサンソフトはつくづく凄いと思
う。データイースト以外でも、そういう思い切っ
たことをやってのけるメーカーがあったと思うと
嬉しいねえ。

左上のマヌケ面が、諸悪の根源・悪代官。
こんな奴がみんなの苦しみの元凶と思うと…。


 これがもし、同じ時代劇でも「忍者」を主役としたシリアスイメージものだったとしたらどうだったか?
そんな「当たり前」のものなんて、何回かプレイしたらお蔵入りは確定であろう。この『いっき』がそうな
らず、今でもたびたび引っ張り出してプレイしてしまうのは、心があの屈折した世界を求めているからに相
違なかろうて…。











弱者の代弁者か…

身分制度が絶対であった時代、人は生まれによって人生の優劣が決定付けられていた。


 武士や貴族の家系の者は、ご先祖のその偉業のおかげで空気の如く権力を行使。一方、下層身分に生
まれた者は、その出生だけで権力者からいい様に扱われることを余儀無くされたものである。低身分の
層は一生その身分に縛り付けられ、有する才能や抱く理想を開花させることは叶わなかった――。



おにぎりをキャッチするボーナスステージ。
これ以降しばらく、サンソフトゲーの名物に…。
 その様な、ただ生まれだけで一方的な差別を受けて
きた者達は、その無念や儚い理想を創作の世界に求め
た。そうして織り成されたものが、各国どこにでも存
在する英雄譚や貧者の出世物語であろう。
 何の返礼もできない弱者のために、無償で権力者に
立ち向かう『ロビンフッド』『鼠小僧』といった幾多
のヒーロー。そして『わらしべ長者』みたいな、貧し
い下層民がトントン拍子に大成功を掴む成り上がり物
語――現実には決して有り得ないこれらは、即ち現実
世界の弱者の渇仰する「理想」の具現化であったわけ
である。逆に言うなら、そういう物語が沢山ある地域
ほど、身分差別により不条理な苦しみを強いられてき
た者が大勢いたということであろう――。



 そういう観点から見れば、この『いっき』
とて、同じ人間同士で特定層が他者を一方的
に搾取する時代への風刺ものと受け取ること
もできる。
 上の方で書いた通り、『百姓一揆』とは命
を賭した直訴・抗議活動。よしんば望みが受
け入れられたとしても、その首謀者連は責任
を負わされて一様に死刑となるのが必定であ
った。本作の主人公たる権べと田吾だって、
その覚悟を決めて戦いに臨んだはずである。
一見オチャラケの世界だけれど、こうして掘
り下げてみると重く辛いテーマが根底に流れ
ているよなあ…。

士農工商なんぞ糞喰らえ! 土に生きる民の
意地を込めて、怒りの鎌投げで突き進む!


 よってみなさんも、今後本作をプレイするにあたっては、そのノリだけに囚われずに様々な視
点から見据えてかかってみて欲しい。ゲームシステムそのものや、そもそも『一揆』とはいかな
る活動なのであったのかを。それによって、見た目だけで変ゲーのそしりを受けてきた本作の名
誉が回復されれば、一ユーザーとして心より嬉しく思う――。


(C)SUNSOFT 1985

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おまけ

 本作で主人公を務めた権べだが、実は同社の別作品でもゲスト出演を飾っている。
『いっき』に続くFC第4弾『アトランチスの謎』である。


 謎の大陸アトランチスが大西洋上に浮上。その調査に向かったきり行方不明となっ
た師匠を探すため、主人公ウィンもアトランチスへ――というものなのだが、その師
匠というのが他ならぬ権べ! 全くサンソフトは何考えてんだか…。


アトランチスの最深部で石化中の権べ。
ここまで来られただけでも大したもの!?

ダイヤを取れば元通り、笑顔の復活!
尽きぬ謎を残したまま、アトランチス探索は続く…。


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